真夜中まであと2分

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Bialystocks『Tide Pool』の感想を彼らがMステとかに出る前に書いておく

2022年2月、いつものように深夜ラジオを聞いていたら、Bialystocks(ビアリストックス)「Over Now」を発見した。これが良すぎた。1月26日発売のEPアルバム『Tide Pool』の一曲目とのこと。

 

フルアルバムも聴いてみたが、全体としてバンドとしてのサウンドの軸は保ちつつもバリエーションに富んだ曲が楽しめる、最高の作品だった。もうすでにみんなに気づかれているようだが(MVは30万回以上再生されているようだし)、「私は彼らがMステに出る前から知ってたもんね」をやりたいがために、ここに感想をちょっと書いておく。

 


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Bialystocksはギター/ボーカルの甫木元空さん、キーボードの菊池剛さん主体のツーピースバンド。『Tide Pool』は2枚目のアルバムで、前のアルバム『ビアリストックス』(2021年2月17日)以来およそ1年ぶりのリリース。

 

『Tide Pool』から感じた彼らの特徴を3点にまとめると、それは「ノスタルジー感・ラジオの音質感」「一方で地味だという印象を与えないポップ感と曲構成」「それらの両立を可能にする演奏力」だと思う。

 

目次

 

ノスタルジー感・ラジオの音質感

最初から他のバンドと比較して感想を述べるのは野暮かもしれないが、大きなくくりで言えば、2021年に世界的に爆売れしたSilksonicと似たコンセプトをBialystocksに感じた。


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とりあえず、ドラム・ベースの音質から始まり、全体的に音作りが似てるよね、というのはすぐ言える(最近のひとつの流行り?)。でも単に音が似ているだけじゃなくて、バンドとして表現しようとしているコンセプトが似ているので、その結果として音も似てきているのだと思う。

 

めちゃくちゃ大雑把に言うと「気分が上向きになるけど聴いてて疲れない」「長距離ドライブ中にカーラジオからふと流れてきたら嬉しい」音楽。

 

曲の構成もそうだと思うが、全体の音作りとして低音・高音を強調しすぎず、全体として中音域に暖かく、コンパクトにまとめている感じ。

 

ラジオ感というか、「カセットテープ感」や「カーステレオ感」と言ってもいいのかもしれない。彼らの音楽性が持つノスタルジー感を、この音作りが後押しして全体として非常にホッとする聴き応えになっている気がする。

 

流行りの「ハイレゾ」は良いし、初めて曲を聞くときの体験としてはガツンとした音のほうが印象に残るのかもしれない。でもそういうのってそろそろ疲れませんか?ふとした時に、何回でも聞ける良曲が欲しくないですか?

...というような気持ちに答えてくれている。その点においてBialystocksはSilksonicに似ているなと思った。*1

 

食べ物で言えば、出汁が効いてて塩分控えめだけど春菊とかの少し特徴的な具が入ってる味噌汁。これは伝わるだろうか。

(カレーでいうとバターたっぷり味濃いめの北インドチキンカレーではなく、胃に優しいながらもスパイスがきちんと感じられるスリランカダルカレー。)

 

 

ポップ感と印象に残る曲構成

「春菊入り味噌汁」が適切な例えなのかわからないが、言いたいのは、「落ち着く聴き味だが、聞き流されてしまわないための取っ掛かりがきちんとある」というポイント。優しい音作りをしているからと言って、まったく退屈な印象は受けない。

 

「Over Now」には、一回で耳に残り、思わず口ずさんでしまうようなメロディーがきちんと入っている。ポップ感がある。アルバムの一曲目だからわかりやすさも重視したのかもしれないけど。個人的にはBenny Singsとかに似たメロディーセンスだなと思ったりした。

そして、ポップながらも要所要所で「ここにこんな音が入ってくるのか」という驚きがあり(この曲だと特に中盤のホーンとか)、それが聴いた人の心に「もう一回聴いてみよう」という気持ちを生じさせる。

 

さらに、アルバム『Tide Pool』の曲をすべて聞いていくと、「ポップなだけじゃない」という側面がどんどんと感じられるような構成になっている。2曲目の「All Too Soon」はかなり構成が複雑で、次の展開がどうなるのかに惹きつけられ、気がついたら4分が終わっている。1曲目とのコントラストが結構すごい。

 


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「口ずさめる」曲とは好対照の、「引き込まれて聴き入ってしまう」曲。次節でもリンクしている彼らのインタビュー記事によると、ミュージカル的な展開を意識して作曲をしたとのこと。

 

曲構成としては、ポピュラー音楽として成立するギリギリの少し手前くらいを攻めてる気がする。バンドメンバーの菊地誠さんはジャズピアニストということで、ちゃんと理論を修めた人が作曲してるんだろうなあということがガンガンに感じられる。

 

ただ、先に挙げた「Over Now」にも、この曲を彷彿とさせるような複雑な構成は目立たないところに散りばめられていると思う。それを全面に押し出すかどうかを曲によって意識的に使い分けていそう。

 

上の2曲だけでも彼らの作曲の幅は十分に感じられるのだが、アルバム全体を通して聴いてみると、その印象は更に強まる。彼らの音楽性の軸はしっかり感じられつつも、曲調としてはかなりバリエーションに富んだ5曲。

 

3曲目「フーテン」とかは細野晴臣風だなと思った。こころなしかタイトルも細野さん風味の言葉。

 


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アルバム最後の「あいもかわらず」は高田漣とか、もっと新しい人でいうとThe Charm Parkっぽい。カントリー風味。

 


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4曲目、「光のあと」はこのアルバムのなかで一番「バンド」ぽい感じで、多分一番わかりやすい。特に中盤以降の盛り上がりの感じ。

 


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バンプオブチキンとかそっちの雰囲気を感じる。ライブの最後とかにやりそう。

 

「光のあと」に関してだけいえば、「この曲みたいな曲をいっぱい作れる」バンドはもしかすると彼らの他にもたくさんいるのかもしれない。

しかしBialystocksは、こういう「いかにもバンドっぽい」サウンドを自分たちのカードの一枚として持っているに過ぎず、実際は他にいくらでも面白い曲を作れる。そういう印象(あるいは本人らの意気込み)をアルバムを通して受け取った。

 

追記:1年前は4人のバンド編成だったが、今回のアルバムから正式にツーピースバンドになったということらしい。「バンド」っぽいサウンドへの未練というか、そういうものを捨てて、二人でとにかくやりたい音楽をやっていこうという方向性が今回成功したということなのだろうか。sensa.jp

 

演奏力

最初の話に戻るが、このバラエティーに富んだ素晴らしい曲たちを、ノスタルジーを感じさせる優しい音質で届けることを可能にしているのは、彼らの演奏力だと思う。

 

曲のよさをきっちりと表現する力があるから、「表面的なところでうるさくして聴衆の注意を引く」とか、「アラがある部分はなんか音を詰めてごちゃっとさせてごまかす」とかの小細工をする必要がない。

 

先程も挙げた「All Too Soon」だが、複雑なこの曲に最初から最後まで没頭して聴き入ることができるのは、演奏に違和感を持つことが一切ないからだろう。

 


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サビのドラムパターンが個人的にだいぶ好き。しかし、例えば「ここドラムバタバタしてるよな」とか気になってしまったとしたら、多分この曲は聴衆に受け入れられない。

 

個人的によく思うのは、最近の「ちょっと複雑なコード進行とかを使ってオシャレ感を出している系バンド」では、しばしばドラムやベースの大事さが軽視されているんじゃないかということ。

ギタリストとかは結構上手かったり複雑なことをしてたりする一方で、その後ろのドラム・ベースが単調だったりドタドタしてたり、逆にテクニックを披露しすぎて全体が調和してなかったりする。特に、音源を聞いたときはちょっと良いなと思ってたのにライブを聞くとがっかり、というパターンが多い。(名前は出しませんが...)

 

Bialystocksはピアノ・ギターなどのすぐに耳に入ってくる部分だけでなく、ドラム・ベースがかなりしっかりしていそうという点も、とても評価したいポイント。ライブ演奏もたぶん良いんじゃないかという期待感をもたせてくれる。

 

ただし、Bialystocksはあくまでもギター/ボーカルの甫木元空さん、キーボードの菊池剛さんが主体のツーピースバンドとのこと。ドラムやベースを演奏している人たちは正式なバンドメンバーということでは無いらしい。

mikiki.tokyo.jp

個人的にはだれが「正式」メンバーなのかということには対してこだわりはないが、メンバーを固定したほうが「あのバンドのドラムすごいよね!」というようなファンも付きやすくて、商業的には良いのかもしれない。しらんけど。

 

ドラムが誰なのか特に気になったので調べたのですが、おそらくこの方のよう。

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余談:ライブでチェックしたい

先述のとおり、この複雑な曲をどう再現するのかということも含めてぜひ彼らのライブを見に行きたい。

 

あまり再生されていないが、2020年11月のライブ映像があった。一曲目はギターのチューニングがややズレなのが気になって飛ばしてしまったが、二曲目はいい感じ。

 


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ただ少し昔のものだし、ドラム・ベースが入っていない編成なので評価は難しい。

 

2022年2月後半にリリースライブを行うようだが、この記事を執筆している時点でチケットは売り切れていた。残念。

 

追記:ライムスター歌丸のアフターシックスジャンクションというラジオ番組の2月8日の放送回に、アコースティックライブという形式で出演していたと知ったので聴いてみた。ライブも結構良くて安心した。

 

 

ただ、この出演時のバンド編成は、ピアノ+ギターボーカルというシンプル&最低限のものだった。ドラムやベース、ホーンその他の楽器とかも入ってくるとどうなるのかなというところは気になる。

 

ぜひとも音源完全再現のライブをして欲しいところだが、それはやはり彼らでも難しいのかな...?

*1:実際私はラジオで最初にBialystocksの曲を耳にしたとき、「なんや、いい曲やないか」くらいには思ったが、アーティスト名をメモしようと思うほどの衝撃をすぐには受けなかった。しかし、聴き終わって2, 3分たった後で「さっきのアレめちゃくちゃすごい曲じゃなかったか?」と気がつき、急いでラジオ局のホームページに行き、彼らの情報を調べたのだった。