真夜中まであと2分

アラサーが良いと思った音楽やお笑いについてメモ代わりに書いています。

「ぶーしゃからかぶー」とは一体どういう意味なのか

岡村靖幸「ぶーしゃかLOOP」が2015年頃、TwitterTiktokVineなどのSNSでなぜか流行っていたことを急に思い出した。

 

「ぶーしゃかLOOP」とは、「ぶーしゃからかぶー」に始まり、とにかく語感とリズムの良いワードを散りばめて作られた、岡村靖幸による2011年リリースの楽曲。2022年時点で10年以上前の曲だが、まだまだかっこいい。

 


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この曲は好きなのだが、しかし「ぶーしゃからかぶー」というフレーズは、はたして岡村靖幸が考案したものなのだろうか。絶対に岡村靖幸以前の洋楽などで聞いたことがあるという確信があるのだが、なかなかこれというものがスッと思い出せない。

 

記憶とネットを頼りになんとなく自分の中で「ぶーしゃからかぶー」の歴史を考えてみたので、以下にまとめておく。

 

ちなみに、「ぶーしゃかLOOP」を2022年に思い出したきっかけは、Twitterで次の漫画を見かけたこと。岡村靖幸を口ずさむ犬。

 

 

2015年にこれが流行ってましたよ、ということを記録しているものにはこんなのがあった。

 

kai-you.net

 

https://twitter.com/nknk6164/stat2da20us/1483488255592992771?s=20&t=RR0EjFA-Y2M8dJlliyb8

目次

 

Sly and the Family Stone (1969) "I Want to Take You Higher"

結論からいうと、有名な楽曲であからさまに「ぶーしゃからかぶー」的なフレーズが入っているもの、かつそのなかで一番古いものは、Sly and the Family Stoneの"I Want to Take You Higher"で間違いなさそうである。

 

 歌詞カードには「Boom laka-laka-laka Boom laka-lak-goon-ka boom」と表記されていたりもするが、聞いた感じは「ぶーしゃからからか」。

このフレーズは何回か登場するが、一発目は00:44頃。

 


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Sly & the Family Stoneは、言わずとしれたアメリカのファンク・サイケデリックロックバンド。洋楽コンピレーションアルバムみたいなものにも入ってくるくらい有名な曲なので、わざわざ目指していかずとも、自然と耳にしている人も多いかと。

 

英語版Wikipediaにはちなみに「Shakalaka」という項目があり、そこではSly & the Family Stoneのこの曲が一番古いものとして挙げられている。

 

en.wikipedia.org

 

ただし、Sly & the Family Stone以前にこのフレーズは使われていたものなのか、それとも彼らが作り出した適当な言葉なのか、そのへんははっきりしてこない。

 

ネットでは、「(黒人音楽らしく?)ヴードゥー教のおまじないからとったのだ」とか、ヘブライ語にそれに似た言葉がある(後述)など、真偽のわからない憶測がまことしやかに語られているが、かなり信憑性にかける。

 

個人的にはやはりSly & the Family Stoneがノリ重視で作った言葉というところが一番穏当なところではないかと思う。以下では、このフレーズがどのようにして岡村靖幸までたどり着いたのかについて、考えられるいくつかの憶測を述べる。

 

アメリカのバスケ実況における「ぶーしゃからか」

この件について調べていると、アメリカの2ちゃんことRedditでも、「Boom shakalakaってよく聞くけど何由来やねん」というスレが散見された。アメリカ人も気になっている模様。

 

www.reddit.com

 

そこでのコメントをざっと見ていくと、1993年発売の「NBA Jam」というバスケのゲームにおいて、スラムダンクを決めたときに実況アナウンサーが「Boom Shakalaka!」と叫ぶらしく、現代でも使われる英語スラングとしての起源はそのあたりにありそう。

 


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いまでもバスケの実況でこのフレーズはよく使われるらしい。たしかにNBAの実況とかで聞いたことある。

 

Redditでは、ダンクシュートの擬音(オノマトペ)なんじゃないかという見解も挙げられていた。「Boom!」がボールをゴールに叩き込んだときの音、「Shakalaka」はゴールネットが衝撃で揺れる音。言われてみればそんな気もするが、どうも後付けっぽいのではという感じ。

 

ちなみに「NBA Jam」はGoogleplayでリメイク版が発売されているらしく、ヒカキンがやっている動画を見つけた。全部は見てないので、リメイク版に「ぶーしゃからか」実況が収録されているかはわからない。

 

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一応まだ買える模様で、コメントは軒並み好評。

 

play.google.com

 

映画「パラダイス・アーミー(原題:Stripes)」における「ぶーしゃからか」

NBA Jam」での「ぶーしゃからか」は、Sly and the Family Stoneから直接借用されたものなのか。

 

ゲームの制作に関わっていた人物のインタビューなどを見ると、どうもそうではなく、直接インスパイアされたのはコメディ映画「パラダイス・アーミー(原題:Stripes)」だということ。1981年のアメリカ映画。

 

具体的には以下のシーンらしい。

 


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確かに1:10あたりから「Boom shakalaka」と言っているのが聞こえる。

 

NBA Jamの制作チームがこの映画を見て、ゲームで使用される実況のセリフにこのフレーズを採用した、ということらしい。声を当てていたTim Kitzrow氏本人が以下の動画で証言しているので、間違いなさそう。

 


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よって、影響関係を時系列的に並べると「スライ」→「パラダイス・アーミー」→「NBA Jam」ということらしい。その後にバスケ界隈を経てアメリカでスラングとして広く使用されるようになり、回り回って日本の岡村靖幸にまで届いたという感じだろうか。

 

ただし、岡村靖幸は直接スライを聴いている可能性もかなり高いとは思う。有名だし。

 

Apache Indian (1993) "Boom Shack-A-Lak"

「ぶーしゃからか」というフレーズが特徴的で、かつ世界的に認知された楽曲というと、次に登場するのはApache Indian, "Boom Shack-A-Lak"のようだ。

 


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Apache Indianはイギリスのアーティストで、本名はSteven Kapur、インド系移民の家系とのこと(英語版Wikipediaより)。この曲の入ったシングルはチャートで5位までいったらしいので、まあ結構売れたほう。日本でも当時流れていたっぽい。

 

ちなみに曲調はレゲエで、湘南乃風がこの曲にインスパイアされたと思われる「Boom釈迦楽」という曲をリリースしている。

 

岡村靖幸はこっちを聴いた可能性もある。

 

この曲より後の洋楽になると、「ぶーしゃか」はかなり色んな曲で使われるようになってきているようなので、捕捉しきれない。先に引用した英語版Wikipediaによれば、タイトルにこのフレーズが入っている曲だけでも少なくとも10近くはある模様。

 

余談:ラップ文化における"Booyakasha"

「ぶーしゃからか」に類似したフレーズとして、アメリカのラップカルチャーで使われる「Booyakasha」というものがあるらしい。一応ルーツを辿ると別の言葉のようだ。

 

Dr. Dre (1995) 「Keep Their Heads Ringing'」など。このフレーズは初っ端から出てくる。

 


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一説によると、こちらはショットガンを発砲し、次の銃弾を装填する音のオノマトペらしい(「バーン!カシャ」的な)。

 

en.wiktionary.org

ヘブライ語の「B'vakasha」(どうぞお先に、的な意味)由来ではないかという俗説もあるようだが、これはあまり説得力はないかもしれない。

 

90年代から00年代はじめ、Sacha Baron Cohenというイギリスの芸人が「Booyakasha」をコメディー的に使って有名にさせ、かつ彼はもともとイスラエル出身だったということから、「ヘブライ語起源説」が生じたようだ。

 


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Ali Gというキャラに扮して「ラップかぶれ」の白人若者を揶揄するネタで、イギリスでは結構有名だった模様。

 

以下のページによると、「Booyakasha」の起源はジャマイカ語か、あるいはアイルランド語らしい。

 

turtlepedia.fandom.com

なぜかはわからないが、みんな大好き「ミュータント・タートルズ」シリーズでもこのフレーズは決め台詞的に使われている。

 


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おまけ:遊助 (2011) 「ミツバチ」

最後に、「ブーンブーンシャカブブンブーン」で2010年代のネットをざわつかせた、遊助「ミツバチ」も忘れてはいけない。

 


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今聞いても、歌詞の電波っぷりや妙に癇に障る(あるいは記憶に残る)メロディーなど、謎のパンチがある。

 

上地雄輔はハマっ子であるし、おそらくApache Indianあるいは湘南乃風など、レゲエ経由の「ぶーしゃか」受容であろう。あんまり70年代のファンク・サイケデリックを聴いていそうな感じはしない(偏見)。

 

岡村靖幸の「ぶーしゃかLOOP」のインスパイア元が遊助の「ブンシャカ」だという説も、一応可能性としてはありうる。

 

どちらが先にリリースされたのかということを突き止めるのは意外と大変。というのも「ぶーしゃかLOOP」は音源で配布される前に岡村靖幸のホームページで使用されており、正式なリリース日がいまいちハッキリしないからである。

 

「スライ」→「Apache Indian」→「湘南乃風」→「遊助」→「岡村靖幸」という影響関係の可能性も、状況証拠からだけだと排除できない。

 

なんにせよ、Sly and the Family Stoneが1969年に生み出した言葉が、2010年の日本でハチの翔ぶ音として再解釈されることになろうとは、誰が思っただろうか。文化伝播の予想の出来なさは恐ろしい。