ハリウッドザコシショウが少し前にラジオで話していた、「静岡弁だと大阪ではウケないから方言を隠すために奇声を発するようになった」という話。
「非関西勢がお笑いの世界で生き残るために適応する」という事例としておもしろかったのでちょっとメモ。
(2022年10月26日、ニッポン放送「ナイツ ザ・ラジオショー」でしていた話。radikoでは聴けなくなっているが、某動画サイトなら今でも聴けるのかもしれない。)
奇声を発する芸風は静岡弁へのコンプレックスが理由だという話
他のインタビューなどでもしているので、本人の中ではかなり固まった話の模様。
以下、ナイツラジオショーでの発言。
本当はね、ナイツみたいに漫才とかやりたかったんですよ私〔...〕
静岡弁がね、丸出しなんですよ。ツッコむとこで「なんでだよ」みたいな感じで言うと客ドン引き。
だからツッコミのタイミングで「アーッ!」とか。
喚き声は世界共通だから。
ラジオの話と、以下にリンクしているインタビュー等を踏まえてまとめると、ザコシショウと静岡弁の関係は以下のような感じ。
- ザコシショウは静岡県清水市(現在は静岡市清水区)出身。
- 大阪NSCでケンコバや中川家礼二の同期として芸人活動を開始。
- 大阪時代は静岡弁がネックになってなかなかウケず、劇場のオーディションにも通らず。関西弁でないと特にツッコミがうまくいかない。
- 本来ツッコミが入るタイミングで、「喚く」「発狂する」という手法で勝負するようになる。結果「ホームランか三振か」の芸風になる。
- 基本的に喋りを関西弁に寄せることはしなかった。
- 「バカ面白い」「ばかすげぇ」「しょんねぇな」「だっけや」などの言葉遣いは静岡弁。
- 「珍棒」も静岡弁。
- 中川家礼二は同期のよしみでザコシショウにツッコむときだけ静岡弁よりの標準語になる(「アホやな」ではなく「馬鹿野郎」と言うなど)。
一昔前まではやはり「強くてウケるツッコミ」は関西弁でしか出来ないというような風潮があり、ザコシの奇声はその中でもがいた結果生まれてきたものと思うとなかなか感慨深い。
なお、以上にまとめたものは複数の場所で同じ発言をしているのでそれなりに信憑性はあると思うが、「珍棒」が静岡弁というのだけは本人が勝手に言ってるだけな気もする。
やっぱチンボコより珍棒だね。
— ハリウッドザコシショウ (@zakoshisyoh) January 16, 2021
どっかで聞いたような話だな、と思ったら吉原の遊女だった
「お客さんに受け入れてもらえるように方言をごまかす方法を考えた」というの、少し考えると吉原の遊女の話とよく似ている。
ザコシさんの「静岡弁だと大阪ではウケないから方言を隠すために奇声を発するようになった」という話、地方から出てきた吉原の遊女が方言を隠すため廓言葉を使うという話と同型だな。#ナイツラジオショー https://t.co/CKboaXGMUM #radiko
— おにエレファント (@elephant_oni) 2022年10月26日
いわゆる、地方から出てきた遊女が田舎の訛りをごまかすために、どの方言とも違う独自の「廓言葉・花魁言葉」を使うようになった、というやつ。
有名なのだと一人称が「わっち」だったり、語尾が「ありんす」になるとか。
一般的には、田舎者でも出身地を隠して客を多く取れるように、ということで出来た言語とされている。
「覇権を握っている言語」のネイティブ話者でないと客が受け入れてくれないという状況の中で、吉原の遊女は廓言葉を生み出し、一方でザコシは奇声を発することで適応した。
地方出身者がどんなに頑張っても、その言語のネイティブ話者ではないことはバレてしまうので、それなら誰も使ってない新しい言語を使ってやれ、という発想。
U字工事やカミナリのように、逆に自分の方言を全面に出して勝負するアプローチと比較すると、「奇声」というお笑い界における新言語で勝負したザコシの異様さが際立つ。世代の違いもあるのかもしれないが。
「誰も使ってない新しい言語」を使うことで関西弁ツッコミの覇権に対抗した芸人というのは探せばまだまだいそう。今後も事例収集に勤しみたい。