「NEEDY GIRL OVERDOSE」というゲームをやっていたら、筋肉少女帯および大槻ケンヂが元ネタと思われるオマージュを作中に結構たくさん見つけた。このゲームのメインテーマのひとつである「病み&サブカル」と、大槻ケンヂの世界観は相性がいいからなのかもしれない。オーケンファンとしてテンションが上がってしまったので、気がついたものを以下にまとめた。また、ゲームから筋肉少女帯・大槻ケンヂに興味を持った人向けに、それぞれ関連情報の紹介もちょっとだけつけてある。
なお、まとめたもの以外にも見逃している小ネタがあるかもしれないので、気が向いたら再プレイして追加するかも。
ゲームをある程度プレイした人しかこのページに来ないとは思うが、NEEDY GIRL OVERDOSE は「メンヘラ育成ゲーム」として一世を風靡した2020年発売のゲーム。公式サイトによれば、「最強のインターネットエンジェル(配信者)を目指す承認欲求強めな女の子(超絶最かわてんしちゃん)との生活を描くマルチエンディングADV」。筋肉少女帯・大槻ケンヂに限らず、全編を通して色々なところに平成サブカルをオマージュした小ネタが散りばめられていて、それを探すのが結構楽しい。
以下一応ゲーム内容のネタバレ注意。あと表現上あまり露骨なことを書くと何かの規制に引っ掛かるおそれもあるので多少濁している記述もある。
- まほうのきって(「何処へでも行ける切手」)
- 銀河ステーション(「銀河鉄道の夜」・「レティクル座行超特急」)
- Welcome To Religion(超てんちゃんの宗教においでよ)(「僕の宗教へようこそ〜Welcome to my religion〜」)
- だって私の好きな人は血まみれだって抱いてくれるわ(「再殺部隊」)
- 毒電波(『雫』・『新興宗教オモイデ教』)
- 元ネタの元ネタ...
まほうのきって(「何処へでも行ける切手」)
「まほうのきって」は、作中明言されていないが明らかに「サイケデリックな人たちが使用するアレ」。紙に染み込ませたそれを舌から摂取してトリップするもの。このゲームが大きな話題となった一つの大きな理由でもある。
この「きって」の元ネタは、筋肉少女帯の「何処へでも行ける切手」(1992年『断罪!断罪!また断罪!』収録)と思われる。
歌詞の内容は決定的ではないが、「紅茶の染みた切手」さえあれば「何処へでも行ける」といった描写からかなり "サイケなそういうこと" が示唆される。
曲調はプログレっぽい感じ。序盤のベースの感じとか露骨にピンク・フロイドっぽい。筋肉少女帯でプログレっぽくてベースが目立つ曲は大体ベーシストの内田雄一郎氏が作曲にかかわっている。
ちなみに、この曲の「包帯で真っ白な少女を描いた 切手を貰ってどこへでも行こう」という歌詞にインスパイアされ、貞本義行は綾波レイをデザインした、という話をネットで見かけた。真偽不明な噂だが、どうも漫画版エヴァの二巻あとがきにそういうことが書いてあるらしい(https://isolated-hyakunin-isshu.blogspot.com/2020/02/ayanami.html)。
なお、ゲームのSwitch版では「まほうのきって」では流石に審査に通らなかったのか、名称が「まほうのおかし」に変わっているらしい。でも摂取時の演出に特に変化はないらしいので、ほとんどヤバさは薄められてないような気もする。任天堂、寛容すぎ。
銀河ステーション(「銀河鉄道の夜」・「レティクル座行超特急」)
まほうのきってを服用した状態で夜に外出すると、「銀河ステーション」なる新たな行き先が出現し、それを選択するとエンディングになる(正確には他にも満たさなければならない条件があるのだが割愛)。
「銀河ステーション」の元ネタは遡れば宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だろう。ただ、筋肉少女帯ファンとしては「レティクル座行超特急」(1994年『レティクル座妄想』収録)が頭によぎる。
「自殺者だけを乗せて宇宙を走る列車」がテーマの曲。もちろんこの曲自体が宮沢賢治オマージュだが、Needy Girl Overdoseのテーマのエグさを考えるとこれが直接の元ネタとしてはふさわしく思える。
「レティクル座行超特急」はアルバム『レティクル座妄想』の一曲目だが、全体を通して「妄想・幻覚・死」をテーマとしたコンセプトアルバムなので一度頭から通して聴いてみるのがおすすめ。
なお、「レティクル座」はちなみにオカルト界隈ではわりと有名な単語らしく、UFOに攫われたと主張するアメリカ人が宇宙人の出生地として挙げた星座の名前だとか(星座自体は普通に実在する)。
Welcome To Religion(超てんちゃんの宗教においでよ)(「僕の宗教へようこそ〜Welcome to my religion〜」)
超てんちゃんがカルト宗教を創始するという、他の破滅エンドと比べると若干ギャグ色を感じるエンディングのヒント文。これは見たらすぐにわかるモジりで、元ネタは「僕の宗教へようこそ〜Welcome to my religion〜」(1990年『月光蟲』収録)。
「僕の宗教へ入れよなんとかしてあげるぜ!」
「カルト宗教」は筋肉少女帯の曲によく出てくるが、タイトルからしてド直球の曲としては「新興宗教オレ教」(1992年『エリーゼのために』収録)なんてのがある。
聴いてみると分かるが、この曲はおそらく「宗教にハマる彼女を自分が宗教になって振り向かせたい」という話で、筋肉少女帯の中では割合正常なラブソング(もちろん歪んではいるが)。「君がもしも虚ならば、オレが宗教になってあげよう」。
だって私の好きな人は血まみれだって抱いてくれるわ(「再殺部隊」)
エンディングのひとつ、「NEEDY GIRL OVERDOSE」のヒント文で、そのまま歌詞の引用。「再殺部隊」(1996年『ステーシーの美術』収録)より。
「再殺部隊」は大槻ケンヂ作の小説『ステーシー』の内容をテーマとしており、「愛している人に自分が危害を加えてしまう」「殺されるなら自分を愛してくれていた人がいい」という、モロにこのエンディングと重なる内容の曲。
『ステーシー』はスプラッタ系の皮を被った純愛ものという怪作で、「少女が突然原因不明に屍人化する世界で、彼女らを殺せるのはその恋人(か親族)だけ」という設定の話。「再殺部隊」は、それが出来ないときに処分を依頼される組織の名前。
小説はグロいのでかなり人を選ぶが、ハマる人はハマる。曲聴いてからのほうが世界観に入り込みやすいかもしれない。なにげに映画化されてたり、モー娘。によって舞台版が演じられていたりしている。
毒電波(『雫』・『新興宗教オモイデ教』)
作中登場するPV「INTERNET OVERDOSE」で登場する「毒電波」という印象深いフレーズ。これの直接の元ネタはノベルゲーム『雫』だろう。ヒロインの月島瑠璃子の持つ、遠隔で人を操ったり精神異常を引き起こさせたりする能力が「毒電波」と呼ばれている。「夕日を背に佇むヒロイン」というPVの映像も、構図から絵柄から明らかに『雫』オマージュ。
ただ、『雫』の作者が筋肉少女帯・大槻ケンヂに影響を受けたと公言しており、「毒電波」の元ネタはそこまで遡れる(TINAMIX Vol. 1.30 Leaf 高橋龍也&原田宇陀児インタビュー)。
具体的には、「毒電波」は『新興宗教オモイデ教』の「メグマ波」から考えたアイディアだとのこと。設定としては『雫』の毒電波とほとんど同じ。
またそもそもの話として、アレな人のことを指す「電波系」という言い回しが人口に膾炙するのに、大槻ケンヂが一役買ったという説もある。例えば、筋肉少女帯メジャーデビュー第一作目の「釈迦」(1988年『仏陀L』収録)ですでに、精神に異常をきたす「電波」が歌詞に登場する。そればかりか、電波を発信する「アンテナ」の方もご丁寧に登場するのが大槻ケンヂらしい。
電波による精神破壊を「ドロロのノウズイ」と表現する感性は、この時期の大槻ケンヂにしかない。
「電波」にかんするこの手の陰謀論やオカルトは、それこそ人類がラジオを開発したころからおそらくあるのだろう。しかし平成以降サブカル一般で「電波」というフレーズが広く通用するようになったのには、大槻ケンヂの影響が少なからずありそう。
元ネタの元ネタ...
大槻ケンヂ自身、そもそも自分が偏愛しているものをガンガン歌詞や小説のなかでオマージュしていくスタイルなので、以上で紹介したものも遡ればさらにその元ネタがあるかもしれない。その辺りの調査もまたいつかやってみたいが、とにかく膨大になるだろうからここで一旦切り上げる。そこまで行くとネット普及以前の話になってくるので、国会図書館で70, 80年代の雑誌を調べたりとか下手したら学問の世界になりかねない。
とりあえず、筋肉少女帯のことをよく知らない人(あるいはコミックバンドだと思っていた人)たちが彼らの楽曲を聴くきっかけにこの記事がなれば嬉しい。NEEDY GIRL OVERDOSE の世界観にハマるひとはきっと筋肉少女帯・大槻ケンヂの世界観にもハマるだろう。
最後に比較的最近の筋肉少女帯の曲「オカルト」を貼っておく。上で紹介した曲はどれも90年代のものだが、これは2018年で比較的新しめ。刺激が強いのが欲しい人は過去の曲を聴いたほうがいいかもしれないが、ちょっと刺激が強すぎる人はこの辺から聴くのが無難かもしれない。ちゃんと変わらぬ筋肉少女帯の世界観と音だが、歳を重ねたことにより角が取れて聴きやすくなっている。